2016年11月17日

柔らかく、温かく、優しく、切ない「この世界の片隅に」

アニメ映画「この世界の片隅に」を見て、劇場で肩をふるわせながら泣いてしまった。第二次世界大戦中の広島を舞台にした作品で、これほど柔らかく、温かく、優しく、切ない物語は見たことがない。今でも、思い出すと涙が出そうになる。

人間が引き起こす戦争は残酷で、苦しく、辛く、醜い面が多いのは確かだろう。しかし、そんな状況で美しいものを発見するのもまた人間の一面なんだよね。呉軍港に逗留する戦艦の凛々しさ、米軍の爆撃機が青空に描く飛行機雲の美しさ、カラフルな対空砲火の煙に見とれていると、炸裂した砲弾の破片が地上に降り注ぐ……。

焼夷弾や爆弾の構造を学ぶ勉強会の様子や、実際に焼夷弾が投下されてから地上に着弾して発火するまでの過程など、戦闘に関する描写が、今までに見た映画の中でも屈指の緻密さとリアルさで、クレヨンしんちゃん「嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦」での精密な合戦の描写に通じると思った。

雑草を拾っておからと混ぜたり、楠木正成が考案したという、玄米にたっぷり水を吸わせて炊くことで、ご飯の量が増えたように見える非常食など、乏しい食料をやりくりする試行錯誤の描写も細かい。

何より、主人公のすずを初めとして、どんな状況でも懸命に生きる庶民が生き生きと描かれており、憲兵を除いては紋切り型の人間がほとんど登場しないのが良い。戦時下で楽しみを見いだす庶民や、戦闘中に美を感じる瞬間を描いてはいけないのか? そんなことはないんだと初めてわかった。反戦映画によくみられる、主要な登場人物のほとんどが戦争に反対しているようなあり得ない人物描写や、横暴な主戦論者と虐げられる反戦論者というありがちな対立構造もないし、変な反戦思想がまったく入っていない分、登場人物たちの哀しみと、日常生活の過酷さがストレートに伝わってくる。

全編を通して、絵本のような淡い色調と、柔和なキャラクターたちが印象的で、主人公を演じるのんさんの演技もはまっていたと思う。一人でも多くの人に見て欲しい。11月16日(水)の新宿シネマカリテは、各回とも満席で立ち見が出る状況で、終了後に拍手が起きた。上映館が少ないのが本当にもったいない!

11月12日(土)全国公開 劇場用長編アニメ「この世界の片隅に」公式サイト
http://konosekai.jp/

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2016年09月02日

距離にとらわれない人間同士の縁に涙――「君の名は。」(新海誠監督)

新海誠監督の新作アニメ映画「君の名は。」を見て泣いてしまった。主人公の三葉と瀧が突然あふれ出る涙に驚いたように、私自身もなぜ涙が流れるのかよくわからなかったけど、人間同士の縁はさまざまな隔たりに関わらず、2人以上の人間が在ることで成り立ち得るが、同じ場所に居合わせても縁に気づけるとは限らないのがはかなく哀しいんだと思った。

新海誠監督の作品は「ほしのこえ」しか見たことがないけど、距離や時間にとらわれない人間同士のつながりというテーマが、常に作品の根底にある気がする。夜空を駆け抜ける彗星を見て、思わず「トレーサーだ」とつぶやきたくなってしまった。なぜか通じない携帯電話も、ほしのこえっぽいアイディアだと思う。後半の展開にはちょっと無理があると思うけど、全編を通じて、三葉と瀧のひたむきさや純粋さが心に染みた。

映像はとにかく美しくて、細部まで抜かりのない風景描写が劇場のスクリーン一杯に広がるのを見ているだけで幸せな気分になる。ぜひ、環境の良い劇場で鑑賞してほしい。田舎だけでなく、光を反射する人工物や、夜でもたくさんの照明が光り輝く都会も美しい。見慣れた風景も日々変化し、違った美しさが産まれている。普段の生活では、あまりにも当たり前すぎて見ようとしない、気づかないだけなんだよね。人間関係も同じで、接した相手の尊さは、意識して見いだそうとしなければ、見つかるはずもない。

自分という存在も、さまざまな思いも、天地一杯に広がり、エントロピーが増大し続ければ、個は意味をなさない。でもやっぱり、エントロピーの増大に飲み込まれる前の生きた人間としては、個々の出会いを大切にしたいもんだね。

映画『君の名は。』公式サイト
www.kiminona.com/


posted by 豆ジャム at 12:31 | 東京 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月02日

「シン・ゴジラ」はまさに日本のゴジラ! ありがとう庵野監督

昨晩、シン・ゴジラを見た。今まで、日本のゴジラ映画は3、4本見た程度で、一度もおもしろいと思った記憶がなかったけど、シン・ゴジラを見終わったらスタンディング・オベーションしたい衝動に駆られた。もし、日本にゴジラが出現したら、政府はどんな協議を行い、関係者はどう動き、何を思って戦うのか、日本以外の国がどんな干渉をするのか……。そして、ゴジラの異様な姿と戦闘能力、意表を突いた日本人ならではの戦い方など、まさに、私が見たかったゴジラが詰まってた。ありがとう、庵野監督! もうエヴァなんてどうでも良いっていうか、むしろナウシカとか、新しい作品を生きている限り世に送り続けてほしい。

2014年に公開されたハリウッド版「GODZILLA ゴジラ」も良かったけど、シン・ゴジラはいろんな意味でまさに日本のゴジラだった。アメリカのように特定のヒーローが独立してに立ち向かうのではなく、ゴジラという完全な個体に対して組織・集団で立ち向かい、倒すよりも“鎮める”方向で作戦を練るのがまさに日本的! 日本人は民主主義を駆使してゴジラと戦うのだ。

大災害が起きても、何度でも日本が復興するのは、可能な範囲で、自分に適したやり方で最善を尽くす人々がいるからだ。まさに、主人公の「この国のいいところは次のリーダーがすぐに決まることだ」というセリフに集約されている。庵野監督は、日本人を信じているんだろうなあ。まず自分たちが戦わなければ、外国だって助けてくれない。というか、外国人は自分たちを守るためなら、日本なんてどうでも良いのだ。

今年は、「恋人たち」や「葛城事件」などすばらしい邦画に出会えたが、文句なしに最高峰の作品だと思う。

なお、上映中、スクリーンに長時間虫が映り込んで気になってたんだけど、終了後の劇場側の説明によると、その日の最終上映会だったため、あえて上映を続行したそうで、お詫びとして全員に無料鑑賞券が配布された。こんなこともあるんだねえ。もう一度、ゴジラを見に行こうかな。

映画『シン・ゴジラ』公式サイト
http://shin-godzilla.jp/
2014年08月01日
さんざんじらされた後の怪獣プロレスが産み出すカタルシス!「GODZILLA ゴジラ」

http://mamejam.seesaa.net/article/403034434.html


posted by 豆ジャム at 14:38 | 東京 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする